「クラッシュ」が2005年アカデミー作品賞を受賞したのは理由がある

もう2月も終わろうとしている昨今、寒さはまだまだ続きますね。この季節はそう、映画ファンには避けては通れないアカデミー賞の季節です。2016年もきっと質の高い作品が揃っていることでしょう。

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▲まだ未見の作品も多いので早く観たいです。どれも面白そう!

さて、今年はノミネートに黒人アクターや監督らがいなかったこと(2年連続)で黒人俳優や監督らがボイコットしたことが話題になりました。確かにアカデミー協会は60歳過ぎの白人男性ばかりでその体制はこの現代には似つかわしくないとも言えます。

だが、しかしです。少なくとも、アカデミー協会はしっかりと映画そのものを観てちゃんと評価していると個人的には考えてます(全ての年がそうとは言い切れない部分もありますが)。色々利権や何やらはあるにせよ、です。

2016年は『マッドマックス・怒りのデス・ロード』が作品賞にノミネートされているのもそうで、流石のアカデミー協会もこの作品は無視出来なかったのでしょう。受賞することよりもノミネートされたこと自体が大きな事件です。

IMAGE DISTRIBUTED FOR TV ONE - Filmmaker Spike Lee on the set of TV One's News One Now discussing his upcoming release of Chi-Raq and Hollywood diversity on Friday Nov. 20, 2015. (Rodney Choice/AP Images for TV One)

▲アカデミー協会に抗議しているスパイク・リー監督

確かに、私も黒人やアジア系の俳優や彼らが作り上げた作品は多く出てきて欲しいですし、人種問題や社会的弱者等を扱った作品は色んな人に観てもらうべきだと思います。

だが、それらの要素を扱っているという理由だけでアカデミー賞を受賞して欲しくないのは正直なところですあくまで映画は娯楽エンターテイメント。アカデミー賞は映画の質そのもので勝負する場であって欲しいと願うからに他なりません。

確かにアカデミー協会に白人が大多数なのは事実ですが、もしかしたらこの2年間にそれに見合うパフォーマンスを見せた黒人俳優や監督はいなかったかもしれません。

必ず黒人を一人は入れないといけないという暗黙のルールがあってもバランスはおかしくなります。個人的な意見ですが2014年作品賞を受賞した黒人差別を扱った映画『それでも夜は明ける』はその辺の便宜を図ったのではと考えてしまいます。

◆『ブロークバック・マウンテン』は何故アカデミー賞を獲れなかったのか?

この一連の話題で筆者は『ブロークバックマウンテン』の騒動を思い出しました。男性同士の同性愛を描いて話題となったアン・リー監督の衝撃作です。

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▲筆者が大好きなジェイク・ギレンホールが出ているのだ。ハズレなワケがない!

その衝撃的な内容とその作品の文芸性、格調高さで2005年度アカデミー賞作品賞は確実と言われておりました。結果はまさかの落選!監督のアン・リーはアカデミー協会を「保守的だ!」と批判しました。

アン・リー監督はそう抗議しましたが、果たしてアカデミー協会が保守的だから『ブロークバック・マウンテン』は作品賞を受賞出来なかったのでしょうか?

私はそうとは思えません。ゲイを扱った『フィラデルフィア』『ミルク』も受賞していますし。単純に、同年作品賞をもぎ取った『クラッシュ』の方が素晴らしかったからの一言に尽きると思います。

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世相的に『ブロークバック・マウンテン』がアカデミー賞を獲るだろうという空気の中、『クラッシュ』に作品賞を与えたアカデミー協会は凄いと思いました。少なくとも冷静に判断していると。

この『クラッシュ』はサラダボウルな人種がうずまくアメリカ社会の人種問題をテーマにした作品ですが、その切り口と圧倒的な人間ドラマを描き切った素晴らしい作品に仕上がっております。

『ブロークバック・マウンテン』がうんぬん言っている人が意外にこの『クラッシュ』を観ていないケースが多い。筆者的にはオールタイムベスト20には入るくらいの大傑作なので取り敢えず観ろ!という事です。そんな本作の見所を少しだけご紹介させて頂きます。

◆『クラッシュ』ってどんな映画?衝突すんの?ある意味間違ってはおりません。

さて、この『クラッシュ』はあまり日本では知名度があるとは言い難い作品です。地味な内容ですが、サンドラ・ブロック、ドン・チードル、マット・ディロン、ブレンダン・フレイザー等が出演しており実は割と演者は豪華。

▲『ミリオンダラー・ベイビー』の脚本で知られるポール・ハギスの初監督作品。

作品は様々な人種が交錯する群像劇で、描かれる人種の壁・そして偏見が描かれております。特定の主人公はおらず、『どですかでん』『トラフィック』『ラブ・アクチュアリー』のようなグランドホテル形式で展開していきます。

この作品は一つの車の衝突事故を起点として様々な人々の偏見から生まれる「衝突(=crash)」を描いているが、その一方で多角的に物事を見ることでその差別や偏見が変わることを伝えようとしております。

我々日本人も少なからず「韓国人は○○〜、中国人は○○〜」みたいな偏見は多少なりともあると思いますが、その偏見を持ってその人たちと接することは人としてイイ意味でのぶつかり合いを避けているとも言えるでしょう。

人々は真の意味で人間として真正面からぶつかり合う=crash してこそ偏見や差別がなくなる=分かり合えるのだとこの映画は言っているかのようです。

本作のハイライトは、マット・ディロン演じる差別主義者の警官ライアンが黒人女性(サンディ・ニュートン)を、事故を起こして爆発寸前の車両から決死の覚悟で救出するシーン(パッケージにもなっております)。

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このシーンの緊張感と展開は本当に素晴らしく、映画史に残るシーンと言っても過言ではない!当時低迷気味だったマット・ディロンはこの役を熱演しアカデミー賞助演男優賞にノミネートされました。素晴らしい!

この作品はどの俳優も主張し過ぎない名演を披露しており、アンサンブルキャスト作品としても超一級品。コメディのイメージが強いブレンダン・フレイザーまでも好演しており、監督の手腕とバランス感覚は見事としか言いようがありません。

とにかく印象に残るシーンが多く、その社会性の高いテーマと作品の完成度の高さから多くの人にもっと観て欲しい作品です。だからこそアカデミー協会は本作に作品賞を与えたのだと思います。

気がついたら本作は筆者のここ10年でのナンバーワンの作品だったりします。未見の人は是非、ご鑑賞あれ。

◆アカデミー賞は「本当に素晴らしい作品」にこそ取って欲しい

話は2016年度のアカデミー賞に戻りますが、今回のノミネートもアカデミー協会が冷静に選んだ作品や俳優、制作者たちであると信じたいです。そして受賞もそうであると。

今回悲願の初受賞となるかが話題の『レヴェナント』で話題のレオナルド・ディカプリオさんですが果たしてどうなるか… ここまで「アカデミー賞を獲るために作った映画」というのも珍しい。

以前もアカデミー賞を獲る気満々だった『ウルフ・オブ・ウォールストリート』も結局受賞はならず。「アカデミー賞獲りたい!」ってのが前面に出過ぎてて力が入っているうちは獲れないんじゃないでしょうか…(マコノヒーやジョナ・ヒルの方が良い演技してたしなあ)

2007年度アカデミー賞、『ディパーテッド』で悲願の初受賞となったマーティン・スコセッシ監督でしたが恩情説が強いのは否めません。それでもアカデミー賞はハリウッドの人たちにとって喉から手が出るほど欲しい、名誉ある賞なのでしょう。

「賞なんてどうでも言い!」という人もたくさんいるとは思いますが、受賞すればその作品の価値を観る一定の尺度になるのは間違いないでしょう。

『クラッシュ』のように比較的地味ながらもしっかりと良い映画がアカデミー賞を受賞することによってたくさんの人に観てもらえるのは素晴らしいこと。体制は変えていく必要はあると思いますが、アカデミー賞は今後も権威のある賞であり続けることを願うばかりなのです。

 

 

 

…今年のアカデミー作品賞はどれが獲るかと思いますかって?

観てないですけど作品賞は『スポットライト』監督賞は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のジョージ・ミラーじゃないでしょうか。もしマッドマックスが作品賞を獲ったら世紀の大事件ですね!

▲一番期待している本作、マーク・ラファロは最近キテいるなあ… マイケル・キートンも好演しているとか!

演者系は観てないから判断出来ませんが『キャロル』のケイト・ブランシェットは格が違う印象でした。『ブルー・ジャスミン』に続いて連続主演女優賞受賞なるか!ディカプリオは?動向が気になる2016年度アカデミー賞!

 

書いた人:桑江 良輔

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エンタメ系IT企業を退社した後にBar店長に転身。本業とは別にクラブを使った映画サントラDJパーティーの開催や映画トークイベント、野外映画フェスにトーク出演等の 映画関連イベントに多く関わる。2013年には立川シネマシティにて世界初の「パシフィック・リム絶叫上映会」を個人で企画。発売日即日完売と大反響を呼びその影響は全国に飛び火した。

映画館の新たな使い方、映画というコンテンツの多角的な楽しみ方、そして若年層を中心とした「映画を観ない層」へのアプローチを日々模索している。映画ウェブマガジン『FILMAGA』、スマートフォン情報サイト『TAPPLI』にてライターとしても活動中。通称“店主”。

桑江良輔Twitterアカウント

 

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