だからインディーズ映画はおもしろい。パワー溢れる1作『光と血』

 

だからインディーズ映画はおもしろい。パワー溢れる1作『光と血』

映画『光と血』が新宿で公開されました。
本作は20代ですでに『オー!ファーザー』『幻肢』など、商業映画を手がけてきた藤井道人監督が、3年の歳月をかけた自主制作映画。

犯罪や事故に巻き込まれた人々の喪失と再生をテーマとした社会派作品で、観終えた後はクラクラするほどパワフルな1作です。
とはいえ商業映画を観るのと同じ期待で観に行くと、おそらく戸惑う作品。
テーマが重いことからも、鑑賞をためらった人もいるかもしれません。
しかし本作は“インディーズ映画のパワー”という観点からも、とても興味深い作品です。


(パンフレットより)

本作を1映画としてだけ観たとき、最もおもしろいのはその綿密に練られた構成
まず複数の登場人物の日常が入れ替わり立ち替わり映し出され、それぞれ独立して展開します。

そしてほぼ同時に3つの事件が起きたのを境とし、無関係として描かれていた人々がつながり始め、思いもしなかった事実が次々と明らかに。

時間軸に加えて人間関係も交差した複雑な伏線が、ラストへ向かって一本の糸となる鮮やかな運びは感嘆です。

その一方で、本作にはまるで学生映画を連想させるような青臭さが。

当初のタイトル『無辜の血』からもわかる通り、”無辜”、すなわち罪のない人々の血が流されてしまったとき、どうしたらいいのかというのが本作の主題にあります。

そして作中の3人の被害者はいずれも、恋人と慎ましい婚約をしたばかりの素朴な女性、被災地へボランティアに向かおうとしていた好青年、心優しい優等生の少女といった、非常にイノセントを強調した設定。

さらに口にするには決まりすぎたセリフ、制作側の主張そのままと思しきセリフが頻繁に登場。

そう、本作は主義や主張があまりにも直球なのです。

(映画公式サイトより)
ではそれが本作のウィークポイントなのかというと、むしろ逆なのが興味深いところ。
少し話が離れますが、私の好きな映画に、監督が“最後の1作”の思いで撮った作品があります。

入江悠監督の『SRサイタマノラッパー』です。

入江監督は何年も映画業界に携わりながらチャンスに恵まれなかったため、監督の道をあきらめることも考えつつ「あと1作だけ」と思い入れを込め制作したそう。

結果的に大ヒットしたけれど、監督が「自分のため」に撮った映画でもあることから、もしヒットしなければ“監督の自己満足”と揶揄されたかもしれません。

しかし監督独自の世界観・空気感を力強く表現することに成功したのは、「自分のため」があったからこそではないでしょうか。

ヒッチコックの観客至上主義のような「制作側が突っ走ってもしょうがない、ヒットしなきゃ」という制作姿勢は私は好きだし、正しいと思います。

それでもやっぱり監督がある種の「自分のため」を込め、青臭いくらいまっすぐに作り上げた作品というのは絶対に必要なはず。

その監督個人にとっても、映画の世界全体にとっても。

そしてそれができるからこそ、インディーズ映画には観客の心にピンポイントでヒットし、いつまでも居座ってしまうほど、アクの強いパワーがあります。

本作『光と血』も、もし「俺たちはこれを伝えたいんだ!」という青臭い訴え方ではなく、もっと巧みで洗練された訴え方だったとしたら、たくさんの人に何かしらの感銘を与えることはできても、観終えたあとにクラクラするくらいのパワーはなかったと思うのです。

(初日舞台挨拶/左から、小寺和久さん、世良佑樹さん、打越梨子さん、出原美佳さん、野沢ハモンさん)

藤井監督は本作に取り組んだきっかけとして2014年の監督デビュー後、新作のメガホンをとる自信がなくなったことをあげています。
そして監督を辞めることも気持ちの整理をつけることもできなかったため、「もう一度ゼロからやり直そう」と考え、プロットを書き始めたのが本作だったそう。

<引用>喪失感と人はどう折り合いをつけて生きているんだろうか。数か月前に、自分がつけることが出来なかった「折り合い」を映画に託した。(パンフレットより)

<引用>本を書いているときから、これは自主制作体制でやりたいと考えていた。制約がない中で、自分ができることを試してみたかった。(パンフレットより)

制作にあたっては俳優陣とディスカッションを行い、編集でもその意見を取り入れながら進めていく手法だったといいます。

そのため本作の主義や主張は監督1人のものというより、制作チームの総意に近いかもしれませんが、作品のパワーの大元にあるのはやはり、監督個人の「自分のため」だと思います。

『SRサイタマノラッパー』なしに入江監督は語れないように、おそらく今後「藤井監督とは」を知るうえで『光と血』は欠かせない作品となっていくでしょう。


(初日舞台挨拶/藤井道人監督)

本作、『光と血』は正直なところ、誰にでもおススメできる映画ではありません。

それはテーマが重いからだけではなく、本当に制作側がやりたいことをやりきったという印象があり、絶対に好き嫌いが別れる作品だと思うからです。

しかし今後ますます注目されていくであろう若手監督の、一生に1つの作品であることも間違いないと思うので、映画好きにはぜひチェックしてほしい。

そしてインディーズ映画ならではのパワーを感じてほしいと思います。

書いた人

以前はあまり観なかったのですが、30近くなった頃から映画館へ行くようになりました。
洋画・邦画どちらも観ます。一番好きなのはサスペンス。
映画には全く詳しくありませんが、記事やレビューを素人目線で書いています。

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